白馬岳主稜 山行報告

 

リーダー:ビスターリさん

 サブリーダー:ミズキさん

メンバー:ガタさん・ヨッシー (記録)

     タラコさん(他会)

 区分:個人山行

 目的:残雪のロングルートを楽しむ

  山域:北アルプス

 山名白馬岳

 ルート:白馬主稜−小蓮華尾根

 形態:冬季バリエーション             

 日程:5/3−5/(前夜発)

 天気:晴れ

 

5月2()

夜、雨の降る中、家を出る。ザックがズシリと重い。傘もザックカバーも、余分な物を持ちたくないので置いてきた。幸い、小降りになったのでさほど濡れずに済んだ。新宿駅の中央線ホームに着いたのは、列車出発の一時間半前。山への期待と緊張のせいか、ちょっとおかしい。明日は、白馬へ登る。主稜を辿るバリエーションルートで、私には初めての経験だ。当初は、槍ヶ岳中崎尾根の計画を伝えられていたが、白馬に決まった時に、そこならば、頑張れば私でも登れる、と何故か思った。夏と晩秋に二回、一般登山道を登った時の思い出がどちらも素晴らしく、白馬に親しみを感じている為だと思う。イメージ出来るのは、自分の経験の範囲でしかないことを、後で思い知ることにはなるのだが。新宿1154分発のムーンライト信州81号に乗り込む。ミズキさんの尽力で、超繁忙期の人気列車に席が取れた。同じ列車に、それぞれ表銀座の縦走と、鹿島槍ヶ岳の登攀へ向かう、友人2パーティーも乗り合わせている。二人共、私と同じ様に少し緊張気味。お互いの安全を祈りあう。ミズキさん、ガタさん、タラコさん、におやすみなさいと挨拶して、寝る準備をする。

立川から乗車したビスターリさんに挨拶して、暫く周囲のお喋りする声を聞いていたが、いつの間にかに眠っていた。

5月3日()

目が覚めると、外はすっかり明るく、列車は信濃大町に着くところだった。ここで下車する友人を見送り、朝ご飯を食べ終わると、もう、白馬到着のアナウンスが流れる。海輪さんは、スパッツからヘルメットまで装着し、早くも準備万端だ。白馬駅の改札を出たところで、おむすび片手のマインさんに遭遇する。唐松岳不帰峰へ向かう途中、白馬駅でステーションビバークしたそうだ。他のメンバーは何処に?と見回すと、軒下にシュラフが三つ並んでいる。と、モコモコと動いてバンブーさんが、続いてナオさんが頭を出した。すごいところで寝ていたなぁ、とびっくり。本当にタフである。お気を付けて、いってらっしゃ〜いと、声を掛けて我々はバスに乗り込む。終点の猿倉で下車。ここで今度は、白馬周辺で山スキーをする計画のたけとしさんに出会う。たけとしさんと、お互いの無事を祈りあう。準備を整え、ビスターリさんが登山届けを出すのを待つ間に、足元にフキノトウが顔を出しているのを発見。ミズキさんと、大喜びでいくつか摘み取り、つぶさない様にザックに収める。今日の夕食は特別メニューだ。

6時40分 猿倉出発 積雪は50cm位。右手に流れる沢の雪解け水が、ドウドウと音を立てている。透明感のある薄いブルーでとてもきれいだ。その向こうに、明日下降する予定の小蓮華尾根が小蓮華岳へ伸び上がっている。ビスターリさんとミズキさんが、下降地点を観察して、あそこが曲がるポイント、あれを過ぎたら下り過ぎ、などと相談している。バリエーション登攀には記憶力が必要なのだ。やがて、白馬岳と主稜が姿を現す。とても高くて、とても長い、あそこを登ってゆくのか。

830分 白馬尻に到着 ここから雪渓を横切り、主稜線を目指して登りにとりかかる。いきなり、胸付きの急登となる。足元の雪の表面は、粒径の大きな氷の粒で、シャーベット状。アイゼンを付けた靴の裏に、泥の上を歩いている様な、ヌルッとした感触が伝わって来る。これが雪?今まで体験したことの無い雪質だ。主稜線に取り付き、八峰を目指して急登が続く。ダブルアックスで、両手両足をフルに使い、登ってゆく。

全身運動だ。前を登るビスターリさんの向こうに、真っ青な空をと真っ白な稜線が、スッキリとした線で分かたれている。

1040分 八峰に到着。一休み。無風快晴、最高の天気だ。ビスターリさんとガタさんは、半袖になっている。それで丁度良い感じ。日焼けが少々心配ですが。八峰から、はい松の生える小さな岩峰を越える。はい松の幹に、ごめんね、と謝りながらアイゼンを乗せる。松ヤニのツンとした強い香りがする。ここは無事に通過したが、七峰への登りの手前で、ズボッと雪を踏み抜いて、谷側へ大きくバランスを崩す。踏み抜いた穴から、谷の斜面が見える。ゾッとしたが、後ろにいたミズキさんはもっとゾーッとした様だ。「さん、ロープ出そう。」きっぱりと告げる。海輪さんがロープを曳いて登ってゆく。末端をミズキさんがスタンディングアックスビレイ。その間を、私、緒方さん、平子さん、の順番でアッセンダーを掛けて登る。ミズキさんが登って来たら、また海輪さんが、ロープを曳いて登って行く。これを繰り返して、七峰から六峰への雪壁を登る。足を蹴り込んでいるつもりでも、体重を載せると、ズズッと滑り落ちる。爪先を下げて蹴りこむよう教えられる。ダブルアックスはとても有効だ。根元までしっかり差し込めば、緩そうな雪にもしっかり効いてくれる。両手で体を支えられるので、安定感、安心感がある。でも、アックスに頼り過ぎていて、傾斜が緩くなっているのに気付かず、杖をついたお婆さんみたいな格好で歩いてるよ、とビスターリさんに言われてしまった。

1240分 五六のコルの手前で一休み。辿ってきた稜線が眼下に連なり、大雪渓を登る人が芥子粒の様だ。すごい高度感だ。なるべく下や横を見ない様に、目の前の作業に意識を集中して五峰へ登る。一歩一歩を確実に蹴り込む。今日のうちに、頂上を目指すのだろうか。まだ陽が高いから、行っちゃうのかなあ、と考え始めたころ、四峰の上に登り上がった。日光に暖められ、雪の状態がどんどん悪くなり、この後の雪壁は登りにくい上に危険、と判断し、1330分、ここを幕営地に決めた。テントの周囲に充分平な所があり、絶好の幕営地だ。中空に突き出した稜線の突端に張る、天空の我が家である。真正面に杓子岳が対峙する、素晴らしい眺め。テントの前に掘った雪のベンチに腰掛け、青空の下で乾杯!愉快・爽快な最高の気分。夕方になって風が出てくるまで、外でおしゃべりを楽しむ。今日の夕食は、五目寿司とトン汁。今朝摘んだフキノトウを刻んで入れたトン汁は、春の香りがして、ほろ苦く、とても美味しかった。自然の中で、自然を味わう幸せを満喫した。夕暮れの陽に照らされる周囲の山々を心ゆくまで眺め、19時に就寝。暖かく快適だった。

54()

3時30分 起床 今日もお天気が良さそうだ。顔にたっぷり日焼け止めを塗る。

5時15分 出発 すぐ目の前から、早速の急登である。今日は雪が締まっているうちに核心部を抜けたい。迅速な行動が必要だ。ロープは出さずに二峰の下部まで行く。

7時20分 後ろから、スキーを背負い、スキー靴にアイゼンを着け、ストック両手に登ってきた二人に先を譲る。今朝、猿倉を出てきたという。ものすごいスピードだ。ここからほんの少しの露岩地点が、私は主稜中で一番怖かった。取り付きの雪の台も、下から覗くと薄い板である。これを足場にしないと、このルートでは登れないが、一体何人の重さに耐えてくれるのだろうか。もし崩れたら、載っている人は間違いなく谷底まで落ちるだろう。スキーブーツで足場を削り無造作に登って行く、その足がうらめしい。立ち上がるのが怖いので膝で登ったら、ミズキさんから「足で立って!!」と注意される。この登り方で滑落した人を何人も見ているそうだ。一見、ホールドだらけの岩も、ちょこっと触れただけでグラッと動く、ボロボロの状態だ。手も足も出せない。我がパーティーも、追い着いて来た他のパーティーも、皆が真下で眺めているので、怖くて仕方が無い。首の後ろの辺りにジーンといやな感じがする。やっとの思いで登り上がり、先行のビスターリさんに、ロープを出してもらえるようお願いした。今まで体験したことのない状況だった。二峰への登りは岩峰を右に巻き、いよいよ最後の核心部。この上は頂上だ。今まで見たこともない、まさに垂直の雪の壁。取り付きからそのままの順番で、ビスターリさんがリードして登って行き、やがて姿が見えなくなる。上からコールがかかり、私の番だ。蹴り込んだ足を信頼して体重を載せ、次の足を蹴り込む。垂直なところを蹴り込むので、体を壁から離さないと身動きがとれない。これは岩登りと全く同じだ。パンプで練習をしていて本当に良かった。毎週練習に付き合ってくれた人達に、こんなところで、感謝の気持ちが湧いてくる。確保しているビスターリさんの姿が見えて、最後の一歩。ヤッター!頂上だ。白馬岳のてっぺんだ!!ビスターリさん、ミズキさん、ガタさん、タラコさん、どうもありがとうございました!嬉しくて、ホッとして、涙が出たけれど、サングラスの陰で誰にも気付かれなかった。

9時20分 全員無事に登頂 記念の写真を撮った後、ガタさんとタラコさんは、白馬山荘まで皆のビールとジュースを買いに行ってくれる。その間、谷を覗き込み、じっくりと主稜を眺める。上から見ると、急なアップダウンを繰り返す、怪獣の背中の様だ。本当にあんな所を登ってきたのだろうか。実感が湧かない。二人が戻り、下降する小蓮華尾根を目指して出発。遠くから見る小蓮華尾根は、白馬主稜と比べて、たおやかで、優しい印象だ。今日はのんびり小蓮華尾根を降りて、稜線の途中でテントを張り、昨日の様に幸せな気分で夕暮れを迎えるのだろう。その時私は、そして他のメンバーも多分、そう考えていた。ところが、それは甘かったのである。小蓮華山に着き、小蓮華尾根への下降地点を捜す。稜線の縁に立って下を観察するのだが、直下の状況が見えないので、偵察するビスターリさんを、ミズキさんがビレーした。何度か位置を移動して下降ルートを見極め、スノーバー2本を埋めて確保支点を作る。この時、スノーバーにテンションが掛かった場合、スノーバーがより深く雪に食い込む様、結んだスリングの下に溝を掘る大切さをビスターリさんから教わる。ミズキさんがリード、私が支点ビレーをする。急な雪壁を下るので姿が見えず、ロープを送り出すタイミングがむつかしい。途中、スノーバーで中間支点を取りながらロープいっぱいまで降りたミズキさんからコールが掛かる。下りも、私、ガタさん、タラコさんの順で、ロープにスリングでフリクションヒッチを結んで下る。雪の大きな斜面を2ピッチで下りきると、はい松帯をトラバースし、ガラガラの石の堆積に雪が薄く載った斜面を下る。ここも、石は脆く、雪の上からそっと押さえつける様に、足を置く。決して蹴り込む様なことは出来ない。ルートが定かではないが、すぐ脇の雪渓は、ズボズボと身体が潜って、とても下れない。雪渓の対岸に、単独で下る人が現れた。こんな所で、他の人に会うとは思わなかった。下降して、トラバースし、幕営しようと決めていた尾根に登り返す予定だったが、下降に思いの他時間が掛かってしまった。また、トラバースしようとした斜面が、近付いて見るとガレの急斜面で、とても歩ける状態に無いことが分かった。もう16時を廻って、陽も陰り始めた。ここで計画を変更して、白馬尻まで下ることにする。万一に備えてアンザイレンし、白馬沢に向かってグングンと下降。完全に暗くなる直前の18時30分、白馬沢に降り立った。ここは、左右の谷から雪崩れが落ちて来て、デブリの先端がいくつも観察出来る。もの凄い光景で、あまり長居はしたくない場所である。ヘッドランプを灯し、白馬尻を目指して先を急ぐ。日がとっぷりと暮れた19時過ぎ、白馬尻に到着。長かった一日の行動を終えた。

臨機の対応、安全の確保、雪質の変化、ピッケルの使い方、など、この白馬の山行で私は沢山のことを学んだ。そして、信頼出来るリーダーと、常に穏やかで、心配りを絶やさないメンバーに支えられ、素晴らしい三日間を過ごすことが出来た。皆さんに心から感謝し、楽しい思い出と感動を今、じんわりと味わっている。