甲斐駒ケ岳
(黒戸尾根ルート)
2006.3月4〜6日
海輪(CL)・岩瀬
1日目 竹宇神社〜笹ノ平〜刃渡り〜刀利天狗〜五合目小屋〜七丈小屋
6:45 10:00 11:10 11:50 12:50 14:55
2日目 七丈小屋〜八合目御来迎場〜山頂〜八合目〜小屋
6:20 8:05 10:35 13:05 13:50
3日目 七丈小屋〜竹宇駒ケ岳神社
7:20 13:40
前日夜に竹宇駒ケ岳神社の駐車場に着き、ぐっすり眠ることが出来た朝は、快調な目覚めだった。食事を済ませ出発する。駒ケ岳神社で登山の無事を祈り手を合わせる。本堂は建替え中の工事で何も無かった。尾白川に架かる吊り橋を渡り登山道を歩き出した時に、8年も前の9月に同じようにこの橋を渡った時のことを思い起こしていた。初めての甲斐駒で、しかも標高差2200mを登ることに少しの不安を感じながら歩いた。今回は同じ不安でも、積雪期の黒戸を登る不安である。冬の甲斐駒も北沢峠からの経験はあるものの、その道程は大きな違いがあると思っている。刃渡りの通過、やせ尾根の岩稜、梯子や鎖場の処理に?マークがつく。
雑木林を抜けて、十二曲がりの急登になる前にアイゼンを着ける。薄く積った雪の下は氷化している。途中で先に歩き出したソロの登山者を追い越したが、その日も翌日も小屋に登って来ることは無かった。如何したのかなと海輪さんが気を揉んでいたが・・・。
尾白川渓谷への散策道が橋を渡って続いているが、途中崩落しているところがあるらしくロープが張ってある。先週アイスの時に歩いた尾白川林道に不動滝への道標があったが、ここにつながっているらしい。暫く登ると、登山道が左に直角に曲がり、直進の道が塞がれている。海輪さんの話によれば、粥餅石の水場が崩落の為に通れなくなっているとのことである。前に来た時は、ここで休憩をして水を飲んだ記憶がある。自然も年月が経てば、同じ姿ではいられないという当たり前のことかもしれない。
ジグザグの急登を越えて道がなだらかになると、雪の中に笹が目立つ「笹ノ平」に着く。登り始めて3時間が経過している。横手からの登山道が合流するはずであるが、見落として来たらしい。ここから1時間も登ると刃渡りに着く。岩は殆んど雪に隠れて、鎖だけが出ており、特に難所とは感じずに通過できる。この辺りからも、まだ日向山の林道が眼下に確認できる。八ヶ岳連峰も北から南まで一望のもとである。痩せた岩稜を登り、樹林の切れ目からは、鳳凰三山が美しく見える。視界が樹に遮られるようになると、間もなく刀利天狗の祠にでる。嘗ての信仰登山を偲ばせる場所である。ここを過ぎると、黒戸山の山腹をトラバースして、五合目小屋に出るまで、ひたすら視界の利かない樹林帯の雪道を辿るだけである。道が下りになると、間もなく小屋の前に出る。崩壊の危険があるため、立ち入り禁止になっている。小屋前の広場から甲斐駒の前衛峰の上部に雪煙が上がっているのが見える。ここでは、風をあまり感じないが頂上附近では強い風が吹いているらしい。ここまで来れば、七丈まで2時間もあれば着くのでゆっくり休憩しようとリーダーが言うので、昼食も兼ねて大休止となる。
小屋前から鞍部まで下ると、屏風岩や不動岩の梯子や鎖場の嫌らしい登りが連続する。
8年前の写真を見ると、木製の梯子は朽ち欠けている部分もあり、横木が1本取れているものありで老朽化が進んでいた。現在は鉄骨製の物もあり、木製の物も丈夫な物に取替えられている。しかし、梯子の段には殆んど雪が詰まっており、足を乗せるというより蹴りこむと言ったほうが合っている。横木の両端の雪を払い落とし、そこに手を掛けて登っていく。梯子の最後は何も手で掴むものがないので、ストックを持っている宿六にはヒヤッとすることがあった。梯子や鎖場が終わり、山腹をトラバースすると右手に七丈の小屋が顔をだす。小屋前のベンチの周りは、雪面が床のように平らに整備されていて管理人さんの性格がうかがえる。神社を出てから8時間近くを要している。素泊り寝具無しの手続きを済ませて荷をほどく。小屋の中は石油ストーブが二つ点いていて、暖かいことこの上ない状態である。「外が吹雪いている時は、ここを出る気がしないんだよ」と言うリーダーの言葉が良く分かる。ストーブには大きなヤカンにお湯が沸いていて使い放題である。それから管理人さんと山談義が続き、食事をして寝る少し前まで多義にわたる話を聞くことができた。週末に二人とか三人の登山客しかない今の時期は、管理人さんも人恋しいのだろうと思った。話によれば、1月に登頂したパーティ以後は、人も少なかったし天候も悪く誰も登っていないとのこと。明日は全国的に晴天とテレビの予報番組で聞き、心強く眠りにつく。
6時半前に支度を終え小屋の裏手から登り始める。何故か樹林帯の途中までトレースがあり、それ以後は無くなっている。昨日、刀利天狗下部の痩せ尾根で一人の登山者が降りてくるのに出会った。小さなザックにヘルメットというアンバランスな出で立ちの人だったが、小屋には誰も泊まらなかったというので、その人が付けたものかも知れない。樹林帯の中は、時として胸までのラッセルを強いられ、木に掴まりながら、雪を掻き下ろしながら、さながら西黒尾根の深雪トレのコピーである。樹林帯を抜けると八合目の御来迎場にでる。前回来た時には、ここに大きな石の鳥居が立っていたが、今は柱だけがその面影を残している。八ヶ岳や、遠く北アルプスが見渡せる。甲斐駒の前衛峰が前面に大きく立ちはだかっている。あの頂きの先に頂上があるのだと思うと、辿り付けるのかどうか不安になってくる。
真っ新な雪面に一歩一歩自分達のトレースを付けていく作業は、不安もあるが登って行くという実感がある。あそこは直登して、あの岩は左を巻いて、あの斜面はトラバースしてと、交互にトップを交代しながら高度を上げていく。尤も難しい所はリーダーが確り先頭をきってくれるので頼もしい。九合目辺りで休んだ時に、下を見れば足元から伸びた一条の線が稜線の上に刻まれている。それは紛れも無く自分達が描いたトレースで誰にも消されたり、オーバーラップされることもなく美しく続いている。山岳雑誌でこれに良く似た写真を見ることがあるが、自分がその点景の中にいる喜びは格別である。右手には鋸岳の稜線、左には魔利支天の荒々しい姿と稜線の先に北岳が威厳を醸し出しながら立つ。九合目のピークに立つと、頂上は指呼の間である。喜び勇んで頂に立つ。パノラマの大展望を思う存分楽しむ。対峙して見える南アルプスの女王、仙丈ガ岳は真っ白に覆われている。夏も冬も何回かその頂に立ったが、その時の場面が鮮明に思い出されてくる。
リーダーは言う。「今回の山行の価値は自分達がルーファイをして登ったことだ」と。先行者が付けた踏跡をトレースすることとは、比較にならない充実感と達成感があることをしみじみ感じることが出来た。下りはアンザイレンで、コンテやスタッカットでトレースをなぞって降りてきた。登りの時は感じなかったが、ここもノーザイルで通過したんだと思う箇所がいくつかあった。結局頂上まではザイルを出さずに登ったが、ハラハラ、ドキドキの緊張する場面があったことを思い出した。
八合目の石碑の所でザイルを解き、そこにデポしておいたストックを回収して小屋に向かって下る、下る。登りの時は1時間半も掛かったが、帰りは40分程で降りてくる。小屋を出発して8時間弱の行程であったが、宿六にとって非常に中身の濃い1日であった。
暖かい小屋の中で、管理人さんと山の話やら政治談義に今日も話が弾み、彼の人となりが見えてきた気がする。ドリップのコーヒーやお汁粉のカップをサービスしてもらい、昨夜もそうだったが毛布も1枚無料で貸してくれたりで、感謝感謝である。その夜は満天の星空であったが、翌朝出発する時は雪の降る天気になっていた。
今日は下り降りるだけの行程なので、雪の降る天気もさほど気にもならない。ただ五合目までの道のりは、慎重の上にも慎重にを心掛けて、怪我のないように降りようと、少しもたつきながらの下降であった。五合目小屋からの樹林帯の道は、三歩あるくとアイゼンが団子のように丸くなってくる。私はストックで、リーダーはピッケルでポンポンといわせながらの下山であった。長い長い黒戸尾根の登山道を身体で実感しながら下り、駒ケ岳神社に着く頃は雪も止んでいた。安全に下山できたことにお礼の合掌をする。
今回の山行は、宿六にとって大きな達成感と意義のある、そして大満足な3日間でした。これも偏にリーダーの力量で、力不足の宿六は感謝の気持ちで一杯です。本当に有り難うございました。
小屋素泊り(寝具なし)3000円
(寝具つき)4000円
宿六記